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第3夜

2008.07.10
2階の窓から前の通りを眺めていた。昔住んでいた家だと分かる。家のすぐ前の通りは居住者の車しか通らない。私を含めた子供達の遊び場みたいなものだ。100m先には車が多く通る大通りが平行してあって,私のいる窓からはその大通りへ抜ける垂直の道が伸びているのが見える。

大通りには数台車が通っていくのが見えたが,あとは人っ子一人いない。それなのに,ご近所さんの生活音や子供の声,母親が子供を呼ぶ声だけは遠くから聞こえる。窓の外に付いている低めの手摺にもたれ掛かって,私はずっと外を見ていた。

下階から母の声が聞こえた。窓の手摺は錆びているから危ないという。見ると確かに錆で磨耗し,手摺の径が細くなっているのが分かった。

急に怖くなり,部屋の反対側に避難する。2階は2部屋あり,私がいる部屋とは襖で繋がっていた。今はその襖は開いていて,左手のベランダがある部屋もよく見える。体育座りをして寄りかかっている壁は,漆喰のようで砂やキラキラ光るものが表面にあり,自分の着ている白いTシャツにたくさんついた。畳の上にも少し落ちてザラザラしている。またお母さんに怒られてしまう,と思った。

壁に寄りかかったまま,さっきまでいた窓をまっすぐ見つめる。今は窓の手摺と電線しか外が見えない。部屋の右手の窓はずっと雨戸がしまったままだ。というのも,窓の前には箪笥と大きな鉄の塊のような足踏みミシンがあるからだ。このミシンは,母が電気ミシンを買った時に捨てられてしまった。

この大きくて茶色いミシンを私は大好きだった。古臭い物だったが,私にはそれが大層美しく見えたのだ。機械的に連動する動きや,歯車等の曲線が魅力的だった。ワンピースを作ってくれている母親の足下に座り込み,このミシンにほっぺたをくっつけて一人遊びをすることも多かった。ひんやりしていて気持ち良いのだ。母が時々話しかけたり,頭をなでてくれたり,一緒に歌を歌ったりした。

少しだけ悲しくなって肩越しに左を見る。急な階段が見えた。そういえばお兄ちゃんが階段から落ちた後,お父さんが丸い木の棒と金具を買ってきて,階段に手摺をつけたんだ,と思い出す。

いつの間にか夕方になっていて,部屋の中がオレンジ色になっている。お豆腐屋さんのラッパの音が聞こえた。下から良い匂いがしてきて,もうすぐお夕飯なのだなと思った。

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